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平成21年度調査研究のトピックス(2)

雌阿寒岳における地磁気全磁力観測

雌阿寒岳は、北海道の東部に位置する活火山である。近年の活動は、1988年1月〜2月にかけて山頂ポンマチネシリ火口南東部の第1火口で4度にわたり発生した小噴火(水蒸気爆発)から始まった。1996年11月に再び小噴火が発生し、それまで活動の中心であった第1火口の西端に新たに96-1火口が形成された。その後、活動の中心は96-1火口に移り1998年11月、2006年3月、2008年11月にも降灰を伴った小噴火が発生している。このうち2006年の小噴火はポンマチネシリ火口北西部の赤沼火口群からのもので、この時山頂北西斜面に新たな06噴気孔列が形成された。雌阿寒岳は現在も活発な火山活動を続けている。


写真1
写真1 雌阿寒岳(左)と阿寒富士(右)。

雌阿寒岳では、これまで地震、GPS、噴煙、噴気、地質、地下水位など様々な観測や調査、研究が行われている。地磁気観測所女満別観測施設では、比較的火山活動が静穏であった1977年から電気・磁気的特性の把握と経年変化の監視を目的に中マチネシリ及び山麓周辺での地磁気・地電流・地下電気抵抗測定等の調査を行ってきた。1992年からは、火口付近で年1〜2回の全磁力繰り返し観測(*1)を実施している。また、火山の変化をより詳細に捉えるため、2003年10月から火口の南側約400mの位置で全磁力連続観測を実施している。


図1
図1 雌阿寒岳(MEA)と女満別(MMB)の全磁力差(MEA−MMB)およびポンマチ南西点の地震計で観測された火山性微動の振幅(札幌管区火山センター)(2008年11月11日〜30日)。
上段の黒色:全磁力差(MEA-MMB)、 下段の灰色:火山性微動の振幅。

図2
図2 雌阿寒岳(MEA)と女満別(MMB)の全磁力日平均値との差(2003年12月〜2009年12月)。

雌阿寒岳における全磁力連続観測では、2008年11月18日の96-1火口での小規模な噴火に際して、噴火発生の2日前に地下の温度上昇を示唆する全磁力の急激な減少を捉え(図1)、噴火後は2009年6月頃まで約半年間にわたって地下の温度上昇が継続的に進行した様子を捉えた(図2)。

噴火前に全磁力の減少と火山性微動の増加が見られたことは、噴火の直前に熱水等の上昇が発生し火山体が急速に暖められたことを示唆している。

図3に繰り返し観測による2008年9月から2009年7月までの全磁力変化(図中各観測点の左側のバー)と磁気ダイポール(*2)を用いた解析結果(各観測点の右側のバー)を示す。全磁力変化は96-1火口の南側の全点で減少、ポンマチネシリ火口の中の観測点は全て増加であり、96-1火口の周辺に明瞭な磁気ダイポールによる全磁力変化が認められた。解析では、全磁力変化を説明するために、地下の球状領域の岩石が温度上昇により消磁したと仮定して全磁力変化の計算値を求め、観測値とのずれが最小になる最適な消磁域の位置や大きさ(最適解)を求めた。この解析結果によれば96-1火口から南へ300m、標高約500m(地表面下約800m)の位置に消磁域を想定することで全磁力変化をほぼ説明できる。このことより、96-1火口南側斜面地下の岩石が、地下深部から上昇した熱水等により熱せられたことが推定される。


図3
図3 2008年9月から2009年7月にかけての全磁力変化から求めた消磁域の位置と大きさ
消磁域は中心に×印をつけた灰色の円または楕円で示した。観測点ごとに示した左側のバー(下方向:−、上方向:+)は観測値(2009年7月−2008年9月)を、右側のバー(下方向:−、上方向:+)は最適解による計算値を表している。最適解による全磁力変化の分布は96-1火口の標高での等値線で示した。この計算にあたっては、気象研究所が開発した『マグマ冷却過程解析用ソフトウェア』を使用した(福井ほか、2005)。この図の作成にあたっては、国土地理院発行の『数値地図50mメッシュ(標高)』を使用した。

雌阿寒岳では、火口周辺の観測点において最大で年20nT程度の変動が観測されており、地磁気によって火山内部の熱的活動を評価することが可能である。2008年11月18日の噴火では前兆現象と言える変化を2日前に捉えており、雌阿寒岳の火山噴火予知において地磁気観測が有効であることを示している。これまで全磁力連続観測データは、現地収録のみであったが2009年10月にテレメータ化を実施し、準リアルタイムで全磁力連続観測データを監視することが可能になった。データの準リアルタイム監視は、防災上非常に有効であり今後火山噴火予知により貢献していくことが期待される。


*1: 繰り返し観測
同じ観測点で一定期間をおいて反復して行う観測。通常、観測装置は観測のたびに設置する。年1-2回程度の頻度で行われることが多く、過去の値と比較することで値の変動を見る。

*2: 磁気ダイポール(磁気双極子)
NとSの磁極の対のこと。磁気ダイポールの周辺には棒磁石と同様の磁場が生じる。地下の球状領域の岩石も同様の磁場を作る。磁気ダイポール解析では観測された全磁力などの磁場変動から、どれぐらいの強さの磁気ダイポールが現れた(帯磁)、または消えた(消磁)のかの推定を行う。

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