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研究代表者:徳本哲男
地磁気は方向と大きさを持つベクトルであるため、座標のとり方で表現は違ってくるが、H(水平成分)、Z(鉛直成分)、D(偏角)の3要素で表すことが多い(図1参照)。 しかし直接にH,Z,Dを測定するのではなく、F(全磁力)とD,I(伏角)を測定してこれからH,Z,Dに変換しているのが現在の方法である。 この方法ではFはプロトン磁力計という非常に信頼性の高い測器を用いて簡便かつ正確に測定できる。 D,Iの角度測定には経緯儀に磁力計センサーを取り付けた装置を用いる。現状では観測者が経緯儀を操作して角度を読み取る操作を行っているが、 経緯儀の直交度ズレや傾斜の補正を行う必要があり、また測定操作にもある程度の熟練を要する。 これを自動測定させるためには精密機器である経緯儀および回転させるための動力等も含めて装置全体が非磁性でなければならず、実現困難の主要因となっている。
図1 地磁気の各要素
図2 ベクトルプロトン磁力計(H,Z)
地磁気絶対値を求めるには別の方法も提示されている。図2のように、全磁力計を中心として人工磁場を発生できる補償磁場コイル(ヘルムホルツコイル)が2組(鉛直方向と水平方向)取り付けてあり、全体が水平面に回転できる装置を用いる。図1で見れば、Zを打ち消すように人工磁場を発生させれば、全磁力計での測定はHと同等となる。同様にZの測定は補償磁場コイルを磁北に向けてHを打ち消すよう人工磁場を発生させる。この場合、Dの方向が変動すればHの向きと補償磁場コイルの向きがずれて不都合に思われるが、10分程度以内のズレであれば0.1nT精度では問題はない。
ただ、これはH,ZのみでありDの測定については示されていない。Dについては遠方(100m〜200m程度)に設置位置が分かっている方位標を読むことと組み合わせて測定する方法を検討した。この方法ではあわせて補償磁場コイルの傾斜誤差も補正することができる。図3は方位標が東側にあると想定しての概念図である。人工磁場は同じ大きさで東側と西側に加えて全磁力を測定する。これにより人工磁場と磁北の角度(π/2+(θ-ε))が得られる。次に補償磁場コイルのコイル方向を軸に反転するとεは−εの方向に変わる。反転前後で方位標を読むことで回転軸の方位が分かることから、回転軸からの磁北の向き(π/2+θ)が求められる。これにより、H,Z,Dの3成分が得られる。この方式では装置としてD,Iを測定する経緯儀ほどの精密な製作技術は要さず、補償磁場コイルの回転制御も数分程度でよい。一方、正確な電流制御(人工磁場の大きさ)が求められるが、これは現在の電子機器なら可能と思われる。方位標の読み取りで例えばレーザー等を用いる場合、磁性のある装置は方位標側に設置し地磁気絶対観測装置本体側にはミラーを取り付ける等の工夫で磁性の問題はクリアできると考えている。しかし、重量のある補償磁場コイルを水平回転させるモーターは、かなりのトルクを要することになり、非磁性でこれに応える製品の調査が必要である。また、全磁力計で広い測定範囲をカバーしなければならず、測定値の線形性を確認しておくなどの課題は残されている。
図3 人工磁場コイルの方位測定の概念図