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研究代表者:高橋 幸祐
昭和基地(南緯69°00′19″,東経39°34′52″)では,地磁気の方向と大きさを測定する地磁気絶対観測およびフラックスゲート磁力計による3成分(南北、東西および鉛直成分)の地磁気変化観測が1966年から継続して行われています。地磁気変化観測から得られる連続測定値は、観測機器の温度変化や磁力計センサ部の傾斜変化等によって変動するので絶対値ではありません。そこで、地磁気絶対観測から得られる地磁気の南北、東西および鉛直成分の絶対値と連続観測値との差(観測基線値)を用いて連続測定値を補正し、絶対値化することで地磁気データの品質を向上させることを目指しております。
これまでの調査から、夏季における観測基線値がしばしば原因不明の異常な変化をすることが分かっており、この問題によって連続測定値を絶対値化することが困難でした。夏季に磁力計センサ部が設置されている地盤の傾斜が大きく変動するために、観測基線値が大きく変化するのではないかと考え、2013年1月から約1か月間、センサ部の傾斜と温度を測定しました(図1)。その結果、東西成分の傾斜が2週間で約50″も変化するなど、大きな傾斜変動が観測されました。今後、2013年1月に得られた基線値の変動と傾斜・温度変動の関連性についての解析を行う予定ですが、現在の観測状況では観測基線値を用いた連続観測値の補正は残念ながらできないのではないかと考えられます。
図1 昭和基地のフラックスゲート磁力計センサ部の傾斜変動(上段:南北成分、中段:東西成分)および温度変動(下段)。期間は2013年1月2日から1月25日。
また、2010年から2011年にかけて、昭和基地においていくつかの大規模施設が建設されました。これらの施設建設で使用されている鉄材が地磁気観測に対してノイズ源となる可能性があります。このようなノイズ源が地磁気観測に与える影響を定量的に評価することは、観測データの信頼性を担保するためには重要です。地磁気観測点がどの程度、鉄材によるノイズの影響を受けているか把握するため、施設の建設前後にそれぞれ昭和基地周辺において地磁気の大きさ(全磁力)を測定するプロトン磁力計を用いた磁気測量を実施して、建設前後で全磁力の分布がどのように変化したかを調査しました(図2)。
図2 地磁気観測点(星印)を基準とした施設建設前後の全磁力分布の変化(有田ほか、2013)。黒丸は磁気測量点を示す。
磁気測量の結果、大規模施設の建設によって地磁気観測点が最大で1 nT程度のノイズの影響を受けている可能性があることがわかりました。
<<参考文献>>
有田真・高橋幸祐・源泰拓・門倉昭, 東オングル島における地磁気測量‐新規に建築された施設による地磁気観測への影響の検証‐, 南極資料, 印刷中, 2013.