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平成22年度地磁気観測所調査研究基本方針


I.地磁気観測所の調査研究が果たすべき役割

1.施策目標との関連

 地磁気観測所は、その施策目標として、地球電磁気的手法による地球環境の監視と防災業務への貢献を掲げることとし、このための手段として、

   (1) 地球電磁気的手法による地球環境の観測の的確な遂行
   (2) 観測データ並びに当所の保有する技術の適切な公開

を実施するとともに、

   (3) 地球環境監視並びに防災業務へ観測の成果を高度に活用するための手法の開発

を推進することとする。
 当所における調査研究業務は、これらの業務を高度化しより的確に実施するために行うものである。


2.本年度の目標

 地球電磁気的手法による地球環境の観測の的確な遂行として、地磁気観測に関して、昨年度から開始した地磁気絶対観測の人工擾乱への対応を中心に、観測精度を維持しつつ観測間隔の見直しを検討し、かつ安定した基線値を得るための観測手法あるいは補正方法の調査を継続して行う。
 また、大気電気観測に関して、短期的で激しい変化を伴う雷活動の監視は、広く国民の生命・財産を保護する観点からも重要である。同じく静電センサーによる電界測定を行っている気象研究所とJR 東日本の共同研究に参画し、雷雲検知のための測定装置開発及び雷雲の発達、移動を多点同時観測で捉える手法開発を効率的に進める。
 観測成果の公表に係わる調査研究として、当所の地磁気観測データの有効利用を広く促進するため、過去のアナログ記録から高時間分解能で高品位なデジタル記録への変換プログラムを開発してきた。それら変換データを公開する前の課題として、一般的な特性把握、変換効率の向上、基線値の設定などについて調査する。
 観測成果・技術の利用に関する調査研究として、電磁気的手法を用いた観測による火山活動の監視技術の向上、活動状況の解析手法の高度化をめざし、活動的火山での地磁気・地電流観測(総合的研究)を継続して実施する。また、地震予知関連として、伊豆半島東部での地磁気全磁力異常減少と地殻活動との関連について、昨年度の調査で判明した全磁力観測点での伏角の違いを考慮して調査を行う。


II.観測業務の遂行に関する調査研究の課題

1.地磁気観測(絶対観測評価方法の高度化)

○ 施策目的

 常時連続して計測する地磁気変化観測の測定値には、自然の地磁気変化に加えて、地盤の傾斜変動、磁力計の経年変化、人工的な擾乱などによる見かけの変動が含まれている。この見かけの変動を補正し観測精度を維持するため、地磁気観測所では1週間に1 回の絶対観測を行っている。これまでの地磁気絶対観測結果の定量的評価によると、観測間隔が1週間以上になると充分な観測精度を確保できないとされる。一方で今日の気象業務をとりまく行財政事情には厳しいものがあり、さらなる減量・効率化を求められているところ、絶対観測についても自動化、省力化へ向けた検討は避けられない。
 平成21 年度までの調査研究の結果、絶対観測の自動化については、技術的な可能性は示されているが、現状は測器開発主体が存在しないことから、近い将来の実用化は困難と判断されている。一方で、現用の絶対観測結果の定量的評価の高度化、地磁気変化観測の安定化、あるいは人工擾乱への対処法の確立により、必要精度を保ちながら絶対観測の間隔を見直すための調査を着実に推進する必要がある。


○ 調査研究への取り組み

 平成21 年度までの調査研究の結果、フラックスゲート磁力計基線値を検出器の傾斜データで補正すると、はっきりした年周変化を示すことが見出されている。この原因として、磁力計の温度依存、あるいは気温または地中温度の変化に伴う周辺土壌の磁化の変動等が考えられるが、原因の究明には至っていない。この仮説を確かめるための調査を平成22 年度も継続し、年周変化の定量的評価を目指す。
 地磁気変化観測の安定化を目指す試みとしては、フラックスゲート磁力計と測定原理を異にし、地磁気ベクトルに近い値の測定が可能なdIdD 磁力計について調査を行う。平成20 年度までに、dIdD磁力計のある程度まとまった観測から安定した基線値が得られる可能性が示されていた。しかし、平成21 年度の調査からdIdD 磁力計の補償磁場の安定性に係わる問題が見えてきたので、平成22 年度はdIdD 磁力計による連続観測を継続し、補償磁場の安定性の確認、傾斜・温度データによる補正、さらに他磁力計との比較、設置場所での変化特性等を調査し、変動補正方法を確立して長期に安定した精度を保つための研究を推進する。
 人工擾乱による観測精度低下に対しては、より効果的な監視体制の検討が喫緊の課題である。女満別、鹿屋両観測施設では平成21 年度より全磁力の繰り返し観測による構内の磁場環境監視を開始したことから、構内の全磁力磁場特性と年周変化等の把握のため、平成22 年度も引き続き人工擾乱監視・補正手法の基礎資料を得る。さらに両観測施設では、人工擾乱監視を目的としたフラックスゲート磁力計が平成21 年度に整備されたので、成分観測による環境監視手法について柿岡での事例を踏まえ、両観測施設の状況に適した手法の検討を進める。

 [推進すべき課題:「地磁気観測の信頼性向上のための調査」(重要課題)]


2.大気電気観測

○ 施策目的

 柿岡では、地表付近の大気電位傾度観測を1929 年以来継続している。この観測は主として地球電気環境の監視手段として行われているものであり、静穏時の電位傾度の推移はひとつの興味深い調査対象である。一方で、短期的で激しい変化を伴う雷活動の監視は、広く国民の生命・財産を保護する観点からも重要であることは論を待たない。この分野では気象学においても雲物理を含むメソ気象学が急速に発展しており、雲中での荷電粒子の運動の果たす役割についても研究が発展すると期待されている。
 当所では大気電位傾度の観測についてのノウハウが蓄積されており、雷を対象とした大気電気観測手法の開発を通じて、雷注意報、雷ナウキャストなどリアルタイム情報へ向けた研究に資することが期待される。


○ 調査研究への取り組み

 大気電気測定装置の開発については平成21 年度までの調査研究で、静電センサを用いた大気電場観測に向けて検討を行い、電場変動の大きいときにはフィールドミルと遜色のない値を取得できることがわかってきた。
 一方、気象研究所はJR 東日本と共同で行っている共同研究で、VHF アンテナとLF アンテナによる雷位置評定を試み、当所と同様に静電センサを用いた電界測定を開始している。平成22 年度はこの共同研究に参画し、電界多点観測に貢献することを目指す。
 大気電気観測による雷検知手法の開発については、平成21 年度までの調査研究で、フィールドミル回転集電器によって得られた電場傾度と、レーダーエコーの比較が行われている。平成22 年度は、調査計画の最終年度であることを踏まえ、収集した事例についてさらに詳細な解析を進めるとともに、得られた成果をまとめて学会誌に投稿する。

 [推進すべき課題:「雷雲検知のための大気電気測定装置開発及び検知方法の開発」(重要課題)]


III.観測成果の公開に関する調査研究の課題

観測データの公開に関連した調査

○ 施策目的

 観測成果の公表についての中長期的な課題としては、観測成果の公表・提供手法の改良や、蓄積された観測成果の品質や過去の観測技術に関する調査をあげることができる。これまで、地球電磁気データの公開および提供に関連してデータ・フォーマットの検討、データ・サーバの構築、データ提供の手段となるホームページの充実などの取り組みがなされ、平成19 (2007) 年度には平成13(2001)年以降の地磁気データについてオンラインでの公開が実現している。
 このようなデータ利用に関する近年の利便性の向上は、インターネットなど利用環境の発展もさることながら、デジタル値によって観測データの取得・保存が行われることが前提となっている。しかしながら、約100 年におよぶ当所の歴史の中では、蓄積された高品質なデータの多くはアナログ記録(ブロマイド)として保存されており、代表的なデジタルデータである地磁気毎分値が利用できるのは、柿岡でも高々過去30 年余りに過ぎない。当所の地磁気観測データの持つ本来の価値を明らかにし、また広く有効な利用を促進するためには、過去データをより利用しやすい形態で提供すること、すなわちアナログ記録から高時間分解能の高品位なデジタル記録への変換を進めることが不可欠である。


○ 調査研究への取り組み

 地磁気アナログ記録(ブロマイド)からデジタル毎分値への変換については平成20、21 年度に調査研究を実施し、ブロマイドのスキャン画像からデータの自動読み取りを行うプログラムの開発を通じて、デジタル毎分値化が技術的に可能であるとの見通しを得ている。また、試験的なデジタル毎分値化データについて、並行観測が行われていた光ポンピング磁力計による毎分値との比較を行い、自動読み取りが充分な精度で行われていることを明らかにした。
 一方、デジタル毎分値化データの公開に向けては、未だ課題も残されており、さらなる調査研究を進める必要がある。課題のひとつは、調査を行ったアナログ記録は全体のごくわずかな部分に過ぎないため、デジタル毎分値化されたデータの一般的な特性の把握がなされていない点であり、今後、対象を広げて系統的な調査を行う必要がある。その際、調査を効率的に行うためには、自動読み取りプログラムの改良も重要な課題である。また、従来のアナログ記録では1nT 単位の基線値を1 日ごとに与えれば充分であったが、デジタル毎分値化の際には、より高い分解能で基線値を設定する必要があるため、その手法などについても検討が必要である。

 [推進すべき課題:「地磁気ブロマイド記録によるデジタル毎分値化に関する調査」(重要課題)]


IV.観測成果・技術の利用に関する調査研究の課題

地震及び火山噴火予知関連

○ 施策目的

 科学技術・学術審議会より「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について(建議)」(平成20 年7 月17 日)が出された。気象庁は、この観測研究計画実施機関であり、当所においても積極的に対応していく必要がある。
 地震活動あるいは地震予知については従来より電磁気的手法による取り組みがなされてきた。これまでも多くの断層等で地磁気観測、地電流観測等による調査実績があり、これら成果を踏まえて、今後も積極的な取り組みを続けることは当所の責務でもある。火山噴火予知に関しては、火山活動の監視への地磁気観測の活用の可能性が広く着目されるようになり、気象庁火山監視・情報センターにおいても全磁力繰返し観測が観測項目として取り入れられた。当所としては、今後は気象庁の火山監視の現業業務の高度化のための先駆的な研究としての位置付けのもと、これまでの知見の上に噴火予知・火山活動監視のためのより良い観測・解析技術の開発を目的に調査研究を進めて行くことが求められる。地磁気・地電流など電磁気的手法を用いた観測により、火山活動の監視技術の向上、活動状況の解析手法の高度化をめざす。これらの研究成果を還元することで、気象庁として実施している監視・予知の業務へ貢献する。


○ 調査研究への取り組み

 地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進についての建議で、特に当所に関連の深い課題に取り組む。
 伊豆半島東部では地殻活動と地磁気全磁力の異常減少との関連が指摘されており、連続観測および繰り返し観測を行いその関連性を調査する。加えて、自然電位観測から周辺の電位分布を求め、これらを総合した解析を実施する。但し、全磁力の減少については伏角の地域的な差による見かけ上の変化である可能性が指摘されており、まずはこの点の確認を行う必要がある。この結果によっては今後の取り組みについて再検討する。火山噴火予知のための観測では、解析精度の向上を図る上で火山活動とは関連しないノイズを除去する技術は必須である。調査研究では、これまで実施してきた活動的な火山での連続観測、繰り返し観測を継続し、観測値の年周変化の原因調査や除去手法の開発、火山活動を捉えるための効果的な観測点配置の検討など観測現場で共通した問題を1つの課題として統合して行う。

 [推進すべき課題:「活動的火山における地磁気・地電流等観測(総合的研究)」(重要課題)]

 [推進すべき課題:「伊豆半島東部における地磁気全磁力及び自然電位観測」(重要課題)]



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