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平成18年度地磁気観測所調査研究業務成果報告


重要課題

(1)観測業務の遂行に係わる調査研究の課題

ア.地磁気人工擾乱監視システムの開発(平成17年度〜18年度)

[担当者]:

○徳本哲男,中島新三郎(技術課),大川隆志(観測課)

[成果]:

 平成18年末に「人工擾乱監視システム」が整備された.このシステムの中核となる地磁気人工擾乱の解析部分は,本調査研究課題でこれまでに開発されてきた,いくつかの地磁気計測器の測定値から車輌等の磁気モーメントを求める,という手法を用いて製作したものである.
(機能の概要)
 構内およびその周辺で車輌等磁性体が移動した際に,準リアルタイムで擾乱の有無を監視し擾乱と判定すれば暫定的な解析を行うとともに必要に応じて警報等により注意を促す.その後,地磁気観測総合処理装置の観測データも合わせて精密な解析を行い,続けてオペレータの判断により地磁気データの補正処理を行う.これが最終的に地磁気データの確定値となるものである.つまり監視機能,解析機能,補正処理補助機能(本調査研究と関連するのは前2者であるが)を有しており,業務作業として効率の上からは,各機能が連携しており操作結果を次の作業に活かせること,画像やプロット図を用いて直感的に操作しやすいこと,これにより様々な条件で繰り返し解析できてその結果を比較しやすいこと,等が重要であり,この点についても配慮した.
(全体構成)
 新たに製作されたデータ収集装置が2セットあり,それぞれに全磁力計(オーバーハウザー型磁力計)2台,3成分磁力計(フラックスゲート磁力計)1台が含まれる.これだけでは当所の構内全域をカバーすることはできず,且つ安定した基準値を得る必要からも解析計算にはカスマーの地磁気データファイルを読み込めるようにした.プログラムは監視プログラムと解析プログラムに分けられるが,監視プログラムでの暫定的な計算結果は自動的にログとして保存しておき,解析プログラムで読み込むことでスムーズに処理を引き継ぐことができる.
(問題点,改良点)
 地磁気計測器の台数と設置位置によって,人工擾乱の検出,解析能力は制限されるため,擾乱源の場所によってどこでも同等の解析精度が得られるわけではない.将来的に周囲の状況の変化に応じて計測器の追加,再配置するのは困難で,この点では柔軟性を欠いている. 解析計算での制約として,各観測点間で地点差がないという仮定をおいているため,解析精度を保つためには毎回地点差をチェック,修正しなければならない.また解析に使用するデータには基準点の他に3成分磁力計のデータが必要であり,計測異常値,欠測での対応に注意を要する.
 なお,現時点では,磁気ダイポールの解析結果についてその良否判定の基準は確立されておらず,これが監視から補正までを自動処理できるには至っていない理由の1つとなっている.
 本システムが完成し,これを用いた人工擾乱の監視,解析,補正処理は地磁気観測業務の中に組み込まれてすでに日常的な作業として運用されていることから当初の目的は達成したと考える.

[評価]:

 観測精度を維持する上で車輌等の擾乱は大きな障害となっており,残念ながらこれについては今後も増大する傾向にあると考えられる.地磁気擾乱源を磁気ダイポールに置きかえることで計測値の擾乱変動を説明することはこれまで個々のケースで行われてはいたが,今回,擾乱の監視から解析,補正まで業務支援できる人工擾乱監視システムとして構築できたことには大きな意味がある.世界の観測所に先んじた画期的なシステムであると評価できる.
 人工擾乱監視システムが一応の完成をみたことから,本調査研究は今年度で終了とする.このシステムは今年に入って稼働を始めたばかりであり,本システムを詳しく評価するためには今後,実測例を数多く蓄積する必要がある.また内容的にも幾つかの改良点も思いつくが,将来どのように発展されるべきか,これも日常の業務の中で処理実例を集めつつ検討するのが適切であると考える.


イ.大気電気観測装置のダイナミックレンジ拡張に向けた調査(平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○室松富二男,大川隆志,源泰拓,森永健司,西村三治(観測課),大和田毅,海東恵美(技術課)

[成果]:

 ワイドレンジ型静電気センサによるデータ取得と特性調査については,同静電気センサを水滴集電器に取り付けてデータ取得のための試験を開始した.大きな大気電場の変動はそれなりに捉えているが,取得データに原因不明の異常がみられ,センサの測定領域と水滴集電器の大きさ・形状との関係の問題もあり,取得データの評価はできない.改めて基本的な特性調査を行い,センサの取り付け方法,データの取得方法等の再検討が必要である.
 取得データと雷雲活動との対比については,現行観測装置の毎分値データとレーダーエコーデータ,雷監視システム(LIDEN),東京電力雷雲・落雷情報との対比による事例収集を行っている.未だ事例解析数は少ないが,大気電場が雷を伴う降水エコー(12mm/h)との接近距離が20km程度から反応し始め,最接近に伴い±方向に激しい変動を示すらしいことが示唆される.しかし,雷を伴わない降水エコーの接近にも大気電場は急変化を示すこと,雷放電と急変化の対応が余り良くないことも分かった.更に事例収集・解析を進める必要がある.
 雷雲検知のための測器の検討・試作については,安価な表面電位(静電気)センサを購入し特性の調査中であるが,測器の検討・試作には至らなかった.

[評価]:

 高精度モードの静電気センサによる水滴集電器デジタル値による雷雲活動との比較解析は進みつつあるが,ワイドレンジ型静電気センサによるデータの特性調査及び雷雲検知のための測器開発が滞っている.今後,研究計画を鋭意推進し,新規事業として計画されている空中電気観測装置の改良更新への基礎資料となることを期待する.


(2)観測成果の公開に係わる調査研究の課題

ア.過去の観測データ品質に関わる基本的な調査(平成18年度〜19年度)

[担当者]:

○外谷健,石井美樹,芥川真由美,小出孝(調査課),高橋道夫(所長)

[成果]:

 絶対観測値の算出式に使用するP値(磁石の常数)について,観測毎に求まるバラツキの大きいP値で計算されていたものを,各年毎にP値の年平均値を求め,その平均値を使用して絶対観測値の再計算を試みた.また,野帳計算の再点検を行い対数表の読み取りミスや計算間違いなどについて点検を行っている.
 寸法値の算出方法が統一されておらず,初期の頃には見かけ上の温度係数を考慮したため不自然な動きとなっている期間があった.変化計の寸法値は軌跡位置に依存することから 年毎に感度及びa-factorを算出した結果,変化計の再設置時や調整時を除き安定していることがわかった.したがって,計算処理方法は毎日寸法値ではなく軌跡位置の関数として扱い,安定している期間は一定の係数(平均値)を用いることが適当であると考える.
 ギャップの原簿がない期間についてはブロマイドから読み取りして全期間の累積ギャップ表を作成した.しかし,異常ドリフト期間や欠測期間に関しては変動量が求まらないことから基線値は不連続となる.
 観測基線値は,絶対観測値に上記の累積ギャップを考慮することで年周変化が明瞭となった.このギャップ補正した観測基線値と変化計室温との相関は平均0.97と非常に高く,石室期間(1924-32)について温度補正を試みた結果,観測基線値の不自然な動きのある期間が特定されてきた.今後は新室期間(1932-47)についても同様に計算処理して,精査の重点期間を明らかにしたい.
 毎時値について外国年報(ニーメック,アリバグ)との比較を行った結果,柿岡が特に不自然に思える期間は石室では1924-26年,新室では1932-37年であることがわかった.現在,毎時値計算処理に必要な読取値の入力を行っているが,これができると一部未発見の資料(石室温度読取表)を除きデータが揃うことになるので,今後は入力値及び計算値のチェックを行い,観測基線値の精査を経て採用基線値と毎日基線値を決定し,補正がどの程度となるかを明らかにしていきたい.

[評価]:

 観測データの処理法に関する調査検討を行った結果,問題点がほぼ明らかになってきたと言える.今後は特に問題があると判断された期間について,データ修正を試行する必要があると考える.


(3)観測成果の利用に係わる調査研究の課題

ア.電磁気的手法による火山監視業務のための観測・解析技術の開発に関する総合的研究
(略称「火山総合研究」)(第2次 平成17年度〜19年度)

[担当者(統括)]:

○豊留修一,藤井郁子,大和田毅,熊坂信之,徳本哲男(技術課)


(総合的研究を構成する個別項目)


(ア)観測指針の確立と改善

a.全磁力観測マニュアルの作成 (平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○芥川真由美,海東恵美,豊留修一,大和田毅(技術課)

[成果]:

 制作が遅れていた全磁力連続観測の項目を作成した.また,火山観測ソフトの操作マニュアルを本マニュアル内へ組み込んだ.動画ファイルの欠損部分は現在修正を行っている.

[評価]:

 マニュアルは適宜,訂正されており以後も続けてもらいたい.繰り返し観測の内容については,ほぼ網羅完成されていると思われるが,今後あらたな展開があれば素早く対応して改訂,周知,公開し,当所だけでなく火山監視・情報センター等の業務にも役立てられるよう望む.主要課題となっている連続観測についても続けて取り組んでいってもらいたい.


(イ)観測手法の開発

a.凍上防止標石および埋設型プロトン磁力計の開発(平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○大和田毅,豊留修一(技術課),室松富二男(観測課),橋本雅彦(女満別),池田清(鹿屋)

[成果]:

 1.凍上防止用標石の開発
 女満別構内での試験結果と現地での設置作業量から試作杭を改良し,草津白根山の繰り返し観測点で特に凍上の大きいNo.3,No.5近傍に設置した.また,拓殖大学の星野氏から発想を変えた既製プラ杭の設置方法の提案を受けた.
 2.埋設型磁力計の開発
 過去の事例および試験から問題点を抽出し,ハード・ソフトの両面について改良を行った.その結果,100mmφのトロイダル型コイル(最も信号強度が稼げ,漏れ磁場による土壌等周囲への影響が小さい)のセンサーが完成した.地下20cm,45gポリバケツ(直径38cm)の中心に設置し試験したところ5nT程度のばらつきで測定できたが,必要精度を満たしていないことから,測定方式を一回の励磁で得られる一つのプロトン信号に対し,複数回の計測を行いその平均をとるマルチカウンター方式の検討を進めている.

[評価]:

 凍上防止標石はその性質上,冬季を通じての試験結果をみて改良点を探していくという方法のため,時間がかかるのはやむを得ない事情がある.完成に向けてねばり強く調査を続けてもらいたい.
 埋設型プロトン磁力計は測定値のばらつきが大きくその改善が不可欠だが,ひとまずの試作品が完成したことは評価したい.さらに改良を進めて実用レベルにまで近づけ,実際の火山(阿蘇山)での試験が行えるよう期待する.


(ウ)解析・評価手法の開発と高度化

a.業務支援統合ソフトの開発(平成17年度〜19年度)


[担当者]:

○藤井郁子(技術課),長谷川浩(女満別),熊坂信之,山本輝明,豊留修一(技術課)

[成果]:

 本年度は,(1)カルマンフィルターを用いた火山性全磁力変動抽出ソフトウェアの業務化,(2)汎用ソフトにおける熱消磁現象解析機能の改良,(3)汎用ソフトにおける観測データ処理機能の追加,の3点に取り組んだ.
 全磁力観測値から局所的な長周期変動を効率よく取り出すソフトウェアの開発では,カルマンフィルターを使った手法を現行の確率差分法と入れ替えるための作業を行った.観測データに適用するためには異常値処理性能の向上が望ましく,カルマンフィルターと同様のモデルに対し異常値を取り込んだ解析ができる粒子フィルターの利用可能性を試験した.その結果,カルマンフィルターに比べて,粒子フィルターは異常値にはうまく対応するが,計算精度と計算時間に問題があることがわかり,業務化には適さないと判断した.これらの成果は9月の18th EM Induction Workshopと11月の地球電磁気・地球惑星圏学会で発表した.現在,カルマンフィルターに 異常値検出のイタレーション過程を追加したプログラムを開発しており,今年度中に動作試験を終えて業務利用できるようにする予定である.
汎用版ソフトウェアの熱消磁解析部の改良では,機能の追加として@新設点候補地選定用のシミュレーション解析における熱消磁源の複数点対応,A過去の解析結果を時系列にプロットする履歴表示用時系列図の追加を行った.その他,不具合等の検出と修正,マニュアルの整備を行った.また,札幌管区気象台火山監視・情報センターにその時点での最新版の汎用ソフトウェアを提供し,同センターの熱消磁源モデル解析に貢献した.
 また,全磁力繰返し観測データを入力すると参照点との差の計算や観測結果の図示を行うプログラムを開発し,繰返し観測データ処理機能として汎用ソフトウェアに組み込んだ.これにより,全磁力繰り返し観測を行ったあと,観測値の処理から熱消磁のモデルまでの一連の作業を行うための諸機能が整い,汎用ソフトウェア構想の基本部分が一応の完成を見た.

[評価]:

 地磁気連続観測の時系列データ処理についてはカルマンフィルターの適用により火山に関連する全磁力変動の抽出精度がさらに向上したと評価できる.業務で使用できるまでには若干のプロセスが残されているようだが,このような成果はできるだけ早くに業務に反映させることが望ましい.熱消磁・帯磁によるダイポール解析ソフトウェアも新たな機能の追加,改良が進んでおり,汎用版としての実用段階に向けた調整や各ツールの組み上げを行ってもらいたい.他官署での使用を考えれば,観測データのプロット図等の整備も重要である.
 火山監視・情報センターから熱消磁モデル解析ソフトウェアの提供依頼があり,開発途中との断り付きで最新版ソフトウェアを提供したこともあり,このプロジェクトにより火山関連業務の切実な要望に応え得る統合ソフトウェアの完成を期待する.


b.海流による地磁気変動解析(平成17年度〜19年度)


[担当者]:

○藤井郁子,小池哲司,亀屋暁人(技術課)

[成果]:

 本年度は,統計的方法と数値的方法の2つの観点から,三宅島の全磁力変動に含まれる海洋ダイナモ成分の定量的な見積もりを試みた.
 統計的方法では,三宅島の全磁力5点分と気象庁気候・海洋気象部の海洋総合解析システムによる流速モデルデータに対し主成分分析を行い,海洋起源の全磁力変動を推定した.海域や流速深度などを変化させて全磁力変動が海流とどのように相関するのかを探ったが,複雑なパターンを示し単純なまとめを行うのは難しい.全磁力と流速とのSVD解析などを試み,傾向の把握を試みている.
 数値的方法では,流速モデルデータを用いて,海流によって誘導される電磁場変動を有限要素法によりモデル計算した.2000km四方の計算領域で12km x 12kmの等方メッシュを組み,深さ方向に平均した水平流速とIGRFの磁場を使って,薄層近似を適用した場合の誘導電磁場を計算したところ,海流による長期的な変動の大雑把な傾向は把握できることがわかった.これらの成果は,日本地球惑星科学連合2006年大会で発表された.現時点では,境界付近の流れによる計算値の振動が見られるなどの問題があり,将来的には球座標系へ移行することを考えている.

[評価]:

 「業務支援統合ソフトの開発」で地磁気全磁力連続観測データから火山活動による全磁力変動の抽出精度が向上したいま,海流による誘導磁場を除去する技術開発はますます重要となってきた.日本の地理的な条件からも海洋島や島嶼は多く,この手法の適用範囲は広い.統計的方法と数値シミュレーションの二通りのアプローチが試みられ,今までパターン化が困難であった海流による磁場変動が徐々に再現されはじめてきている.今後の進展に期待する.


(エ)テストフィールド火山における調査観測

a.雌阿寒岳における調査観測 (平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○橋本雅彦,長谷川浩,石田憲久,森山多加志,菅原政志(女満別),山本輝明(技術課)


[成果]:

 ○2006年3月に山上ポンマチネシリ火口北西側(北西斜面06噴気孔列及び赤沼06火口群)で小噴火が発生したことから,今年度は春先の連続点データ回収時に臨時の繰り返し観測を追加し,秋と合わせて年2回の繰り返し観測を実施した.しかし,連続点データ及び繰り返し観測結果から,この小噴火に関連するような変化は認められなかった.
 ○現在の96-1火口南側に集中した測点配置では北西側赤沼火口付近の熱的活動を捉えきれないと判断され,技術課と協議の上,赤沼火口北西斜面に4点の繰り返し観測点を増設した.また,96-1火口の噴気活動が比較的落ち着いていることから,火口西側のごく近傍約50m地点にも試験的に1点を増設した.なお,既設測点については,96-1火口南側を中心に8点を休止扱いにした.
 ○今年度の繰り返し観測では,昨年同様に96-1火口南側測点で増加,北側はカルデラ内3 測点でわずかな減少を示し,ダイポール解析でも位置及び大きさ共に昨年度秋の観測と大差なく,引き続き96-1火口付近下の温度低下を示す結果が得られた.
 ○連続点データは,観測を開始した2003年10月から引き続き増加を示しており,観測開始当初と比べるとその増加割合は年々小さくなる傾向が見られる.
 なお,これら全磁力観測結果は火山噴火予知連絡会に報告され,札幌管区気象台火山監視・情報センター公表の火山活動解説資料(6月,9月)にも掲載された.
 ○今後の課題としては,昨年2月の連続点データに約2週間の欠測が確認され,原因は積雪等によるソーラーパネルからの給電停止が原因と考えられる.これまでこのような欠測は発生したことはなく,現在2個並列(3年及び4年使用)で使用しているバッテリーの劣化も考えられ,今冬の状況を見てバッテリー交換,増強等対処する必要がある.また,昨年6月頃から連続点データに異常値(一定値トビ)が多発する傾向が見られており,今後の状況を監視し対策の検討が必要である.


雌阿寒岳全磁力連続点データ

第1図 雌阿寒岳全磁力連続点データ(参照:女満別)

[評価]:

 ポンマチネシリ火口北西部での活動を機に,繰り返し観測点を再検討し,結果的に稠密な南側観測点から何点かを96-1火口の北側に移すように変更された.今後の観測結果に期待したい.
 連続点での観測結果から全磁力値の増加傾向がはっきりとしてきた.しかし,昨年は欠測および異常値の多発がみられるとのことで対策を施し,課題となっている地磁気特性の把握に努められたい.


b.伊豆大島における調査観測(平成18年度〜19年度)

[担当者]:

○熊坂信之,小池哲司,山本輝明,海東恵美(技術課),新井聡郎(観測課)

[成果]:

 1. 全磁力連続観測点の新設を行う.
 10月18日〜20日 観測点設置のための現地調査を行った.観測点の借地,測器設置について関係機関へ伺い話を行った.火口縁北側に観測点として適する場所があるか,数カ所で磁場傾度観測を行った.
 大島三原山での磁場傾度観測を含む現地調査の結果から連続観測点を選定した.また現在観測機器設置に向けて関係機関への申請書について確認を行ってもらっている.関係機関からの承認がおり次第,全磁力観測装置を設置,観測を開始(平成19年3月末予定)する.

[評価]:

 大島三原山では1986年に噴火を起こしており,その活動周期から各種の観測結果に注意が払われている.現在,三原山では電磁気観測の他にも地震,傾斜,GPSなど観測されている.火口周辺の観測環境は必ずしも良好とは言えないが,火山活動が高まる前の観測データを取得することには非常に重要であり,まずは欠測なく連続観測データの収録が開始されることを期待する.


c.草津白根山における調査観測(平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○源泰拓(〜H18.11),○新井聡郎(H18.12〜),大川隆志,澤田正弘,岩瀬由紀,森永健司,西村三治(観測課),小池哲司(技術課)

[成果]:

 ・5月に連続観測点の保守及びデータ回収作業,9月に全磁力繰り返し観測・連続観測点の保守及びデータ回収作業を実施した.得られた観測結果より,湯釜より南側に位置する観測点での増加,北側に位置する観測点での減少が継続していることが認められ,湯釜周辺直下における帯磁傾向が継続していることを示唆している.このことは,期間中の火山活動状況(火山活動度レベル1〜静穏な火山活動〜の継続)と整合が取れている.
 ・9月の作業時において,連続観測点R点の保守点検中プロトン磁力計本体(PMP-206)の電源再投入が不能となり,本体のみ予備器との交換を実施した.その後,本体のコンデンサ不良が原因であることが判明した.  ・5月の作業時において,連続観測点P点のステー固定用リング一部破損が発覚し,応急措置を実施した.その後9月の作業時においてリング交換作業を実施した.
 ・9月に芳ヶ平遊歩道下部の自然電位観測を実施した.当所大沢川渡渉点付近(標高約1580m)までの観測を予定していたが,標高約1460mまでの観測に止まった.しかしながら未踏破部分の観測は全て実施でき,芳ヶ平遊歩道における自然電位プロファイルを作成することができた.今回測定を行った経路では,全体として中間部分より東側で標高と負の相関を,西側でほぼ横ばいか標高と正相関の変化を示しているが,2003年の観測で見られた数百mVにわたる大きな異常は見られなかった.また,一部2003年における観測と同経路の観測が実施でき,本経路において2003年の観測結果とほぼ同様の傾向を示していることが分かった.
 ・過去の温度観測データの整理を行い時系列ファイルを作成するとともに,過去の連続観測データを見直し異常データの除去等行った上でより適切な時系列を得ることができた.これらは今後年周変化の調査の基礎資料として活用する予定である.
 ・新たな観測設備に関する設計については具体的な進展はなかった.データ常時伝送の必要性,経費面の制約等今一度鑑みた上で今年度内に素案を作成する予定である.

[評価]:

 今回,R連続観測点にトラブルがあったが概ね良好に観測が継続されている.自然電位観測においても,計画した範囲をほぼ観測することができた.今後はこれらのデータも併せて総合的に解析を進めていくことを望む.P点移設の新連続観測点に関して今年度は進展が見られなかったのは残念だが,十分に検討し来年度の実行に期待したい.


d.阿蘇山における調査観測(平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○生駒良友,瀧沢倫明,上杉忠孝,野坂大輔,小木曽仁(鹿屋),豊留修一(技術課)

[成果]:

 ・本年度は年間を通じて火山活動が比較的穏やかに推移したこともあり,火山活動の活発化と地磁気変化を関連付けるような事象は見られなかった.
 ・阿蘇山上連続観測点で雷災と思われる障害が発生し,50日程度の欠測となった.阿蘇山麓および火口西連続観測は年間を通じてデータを取得できた.
 ・観測結果および評価について,第103〜106回の火山噴火予知連絡会議に報告した.
 ・参照点として利用している阿蘇山麓観測点の移設を計画し,大平観測点の調査を行った.観測環境,保守の両面から総合的に判断して,阿蘇山麓点にて継続運用することとした.

[評価]:

 阿蘇山上の連続観測点では障害のため,一時期欠測となったが,火口西連続観測点では一昨年から連続して計測が続けられている.しかし,火口西連続観測点のデータでは昨年夏の地形変化によるものも含めて異常値やばらつきがやや目立っている.さらに安定した計測値が得られるよう測器の調整,保守をお願いする.埋設型磁力計の試験についても,協力して早期に実施できるよう期待したい.


イ.伊豆半島東部における全磁力観測(平成17年度〜20年度)

[担当者]:

○大和田毅,豊留修一,徳本哲男,小池哲司,海東恵美(技術課),生駒良友(鹿屋観測施設)

[成果]:

 1999年から始めた地磁気全磁力の連続観測を継続した.また7月に地磁気全磁力繰り返し観測および自然電位観測を実施した.自然電位の観測は,地磁気全磁力連続観測点の近傍を電位の基準点とし,ほぼ50m間隔に御石ケ沢を登り基準点に戻る測線で測定した.
 全磁力連続観測では,観測を開始した1999年〜2001年10月頃まで減少を続けていたが,その後2003年3月頃まで横ばいとなり,2003年4月頃から再び減少に転じたが,2004年7月頃から横ばい傾向が継続した.なお,2006年4月下旬に3nT程度の減少が見られたが,これは観測点の近くにコンクリートブロック製作用の鉄製型枠が置かれたことによる.
 全磁力繰り返し観測では,各観測点とも2001年3月以降鈍化していた減少傾向が,2004年,2005年の観測では再び減少傾向となり,2006年の観測ではN参照点,W点およびS点で増加傾向となった.N(new)点の減少は鉄製型枠が置かれた場所から比較的近いため,その影響によるものと考えられる.
 この地域の地震活動は,1998年4月の活動後比較的静穏であったが,2006年1月から徐々に活動度が高まり,4月頃をピークにその後低調となっている.全磁力の観測を開始した1999年以降では,最も地震活動が高まった期間であるが,この地震活動に伴う全磁力変化は現在のところ不明である.自然電位観測では,北側の基準点付近および南側の御石ケ沢付近に標高が高くなるにつれ電位が高くなっている領域がある.電位を高くする要因のひとつとして,地下の熱水対流の存在が上げられるが,このデータだけでは断定できない.

[評価]:

 地磁気全磁力観測および自然電位観測ともに順調に続けられている.これまでの観測から全磁力変化は減少と横ばいを繰り返しており年周変化の重畳も考えられる.また2006年の地震活動との関連についても今後,注目していきたい.自然電位観測の結果から,標高と相関,逆相関のパターンがはっきりしてきた.観測データをさらに蓄積し,今後の解析につなげることを期待する.


ウ.日本域における地磁気基準点での観測(平成17年度〜20年度)

[担当者]:

○中島新三郎(技術課),大川隆志(観測課)

[成果]:

 ・地磁気基準点である柿岡,女満別,鹿屋及び父島での地磁気連続観測を継続し,陸域,海域磁気測量や大学等による電磁気的観測研究における基準値を提供した.
 ・より精度良い全磁力基準値を提供するため,柿岡の全磁力観測装置の改良更新を行った.
 また,柿岡に人工擾乱監視システムを整備し,車両等による擾乱を準リアルタイムにて検出することを可能にした.
 ・父島での地磁気変化度観測値の精度向上を図るため,フラックスゲート磁力計を改良し,検出器の傾斜・温度データの取得を可能とした.また,地磁気変化観測値の傾斜変動を小さくするため,検出器設置器械台の改修を行った.

[評価]:

 各課所での地磁気連続観測は継続され,毎分値・毎時値に欠測もなく良好なデータが得られている.
 また,本年度整備した柿岡の人工擾乱監視システムの運用により,今後も精度の良い基準値の提供を期待する.


エ.地磁気永年変化のデータベースの構築(平成17年度〜20年度)

[担当者]:

○石井美樹,外谷健,芥川真由美,小出孝(調査課)

[成果]:

 柿岡で観測された地磁気毎秒値・毎分値・毎時値データを統一的な形式に整理し,ホームページでの公開を試行するためのサンプルコンテンツの作成を行った.また,女満別観測施設で過去に使用された絶対観測測器および変化観測測器について調査し,その結果を年表形式にまとめデータベースに登録した.

[評価]:

 本年度は女満別の過去測器についての概要を年表としてとりまとめることが出来た.観測データの公開にあたっては観測測器等のメタデータの公開が不可欠であることから,このための調査をさらに推進していく必要がある.


オ.大気電気観測の雷情報への活用法に関する基礎的研究(平成18年度)

[担当者]:

○小出孝(調査課),高橋道夫(所長)

[成果]:

 1. 本庁雷検討グループに参加し,航空特別会計で整備されたLIDENの評定精度に関する検討を行ってきて,報告書のとりまとめを行った.また,同検討グループの会合において,大気電気観測についての紹介を行った.
 2. 米国ケネディ宇宙センター(KFC)における大気電場観測ネットワークの運用状況,および雷予知への応用についての調査を行った.KFCでは大気電場データを予測因子に含めることで,予測精度が向上していることがわかった.
 3. また大気電場データの長期変動についての解析を行い,その研究成果を大気電気学会において『グローバル・サーキットの長期変動と地球環境との関係についてという表題で,口頭発表を行った.

[評価]:

 シビアストームは各地で被害をもたらしており,気象庁としても防災情報への取り組みが強く求められている.こうした中,今回の調査を通じ,大気電場観測を雷予知に応用している事例もあることがわかったことから,当所の大気電気観測の新たな発展を切り開く可能性があると考える.


基礎課題

ア.地電流低周波数域データの取得に向けた調査(平成16年度〜18年度)

[担当者]:

○澤田正弘,森永健司,岩瀬由紀(観測課),外谷健(調査課)

[成果]:

・本年度は,次の2項目についてデータ解析を進め,次のことがわかってきた.
 1. 平衡電極によるキャリブレーションの可能性
 ・平衡電極(鉛・塩化鉛:市販品)を9月下旬に現用電極上に埋設し,現用電極との並行観測を実施した.
 @平衡電極に初期ドリフトが見られた.安定するまで約2週間,100mV程のドリフトを観測したが,これは電極に起因するというより,埋設時に水を注入したための周囲土壌が安定するまでの状況を反映したものと考えられる.
 ANS基線では異常変化のセンスが現用電極と逆で,変化幅は平衡電極の方が倍大きい傾向が見られた.これは,浅い方が降雨の影響を受けるためで当然の結果であるが,これまで仮定していたN極の埋設場所が偶然水路にあたっていたという仮定を否定するものとなる.
 B現用電極は一箇所毎に4枚埋設されているが,降雨によりこの4枚の間にも異常変化に差が見られた(10mV程度).この原因の説明は今のところ難しく,アンプゲインの相違など回路系を含めて検討する必要がある.
 2. 多極法による観測システムの構築
 ・地電流の多極法による観測システムの構築に向けて,12chスプリットチャート記録計にRS-422インターフェイスを取り付け,パソコンで収録するソフトウェアを開発した.収録されるデータは各チャンネル共に5秒値で,0.1mVの分解能の電圧値である.
 @ 収録した5秒値のオリジナルデータを各チャンネルの電極間の距離から,mV/km 単位のデータに変更するソフトウェアを作成した.その際,各電極間のデータを東西,南北方向成分に成分分解し,1989年に山崎氏らによって報告されている多電極から電場を求める基本式を元に,各成分に係数を任意に与えられる仕様とした.
 AmV/km単位に変換したデータを,全チャンネル一括して毎分値に変換するソフトウェアを開発した.
 3. 多電極手法の安定性評価
 ・8月下旬より,構築した多電極収録システムによるデータ収録を開始した.2007年1月までの多電極観測データの安定性を評価したところ,以下のことが分かった.
 @構内に埋設されている電極は,殆んど全てが降雨に伴い異常変化を起こす.唯一92SW電極のみ異常変化は起こさない.また,91Wは他の電極と一緒に大きな異常変化を起こしたり全く起こさなかったりする場合がある.
 A降雨に伴う異常変化は,電極毎にそれぞれ独特のパターンを示す.これらは降雨量の違いによる変化の大きさが異なっていても毎回殆んど同じパターンとなる.このパターンを分類すると,急な立ち上がりと指数関数的な回復を辿るもの(ssc型:91W,92SE),なだらかに立ち上がり,直線的にゆっくりと回復するもの(sg型:91S,91E,72N),緩やかな山のような変化を辿るもの(bay型:91N,92NE)の3タイプに分けられる.なお,91Sと91Eは場所が近いためかよく似たパターンである.
 B12月の地磁気現象(storm,si,bay等)を元に,各チャンネルの成分別の係数を調査した結果,比較的短周期の現象(si等)から求めた係数はほぼ一致するが,比較的長周期の現象(storm,bay等)から求めた係数はばらつきが大きいことが分かった.
 本研究により,多電極の地電流デジタルデータを収録し,容易に検証できる観測環境を整備することができた.これまで得られたこの多極の地電流データの検証からは,現状では柿岡構内において降雨の影響については避けられないことがはっきりしてきた長基線と並行で観測していた当時の短基線にも降雨の影響は見られている).ハード的な解決策としては,降雨の影響の届かないかなり深い位置に電極埋設することである.一方ソフト的な解決策としては,電極毎の変化パターンをさらに解析し,振幅と降雨量との相関や回復過程の時定数など異常変化分の補正に必要な常数を求めていくことが考えられる.

[評価]:

 今回の調査は,1980年代後半頃まで観測していた長基線では降雨による異常変化は見られなかったが,短基線に移行してからは降雨による影響が顕著となり地電流低周波域データの取得や解析が困難になったことが発端である.計画段階では,構内基線の埋設深度2.5mは長基線電極の埋設深度3mとそう違わないことや特にNSに顕著だったことから,水路に当たる特別の場所があってそこを避けることで解決できるものと期待されたが,今回の一連の調査結果によると構内の殆んどの場所で影響を受けることが判明した.また多電極データの解析からは,異常変化パターンが各場所毎に特徴があることを見出したのは一つの成果である.次のステップとして,この成果を基に変化パターンを説明するための電極付近での分極過程について調査を進め補正への応用について検討されることを期待する.


イ.標準磁場モデルの開発に関する基礎的研究(平成16年度〜18年度)

[担当者]:

○亀屋暁人(技術課),生駒良友(鹿屋),小出孝(調査課)

[成果]:

 球面2次元の順圧渦度方程式を擬スペクトル法で数値的に解くシミュレーションを行った.その後,磁場凍結近似を用いた球面2次元電磁流体の磁場の動経成分Brについての方程式が,球面2次元の浅水波方程式での深さHについての方程式と同形であることが判ったため,文献・資料の整理を行い,数値流体力学分野でしばしば用いられる「擬スペクトル法による球面浅水波モデル」の調査を行った.

[評価]:

 当初立てた最終目標までは到達できなかったが,調査の過程において,この分野の研究成果や問題点を把握できたと思われる.今後の調査研究業務へのフィードバックを期待する.


ウ.フィールドミル大気電位計のキャリブレーションに関する基礎調査(平成17年度〜18年度)

[担当者]:

○海東恵美,中島新三郎(技術課),大川隆志(観測課)

[成果]:

 昨年度は,現用型の感度板による感度測定方法の良否の検討として,誘導(集電)電極と感度板との距離および印可電圧を変更して感度測定を行った結果,感度板の各位置における印可電圧値と電位計出力値は線形相関で良好な結果を得た.しかし,通常の感度板セット位置における係数と位置を変えた場合での係数は異なり,原因の一つとして感度板の面積が小さいため電位計検出器を支える支柱による電位傾度の歪みが影響したと考えられ,実際の観測に近い状態(集電電極よりも充分に大きく一様な電場)下で測定できるような装置の検討を行った.
 今年度は,旧実験室内に2枚の銅板電極板(2m×2m)からなる平行板コンデンサを試作し,人工的に鉛直方向の電場を作り,その中でフィールドミル大気電位計による計測を可能にした.塩ビのLアングルでフレームを作り,ベニヤ合板をはめ込んでその上に0.2mmの銅板を貼り付けた.一方の電極板は床面に固定し,もう一方は上下方向に可動とし,電極板間の距離を変更できようにした.屋内にセットすることにより建屋がシールドとなって作られる電場は外部の自然電場変化の影響は受けないが,上面の電極板が自重によるたわみのため水平を保持するのが難しく,極板の位置における電場の非一様性の問題が残る.フレーム材質の堅固かつ軽量化,あるいは吊り下げ方法の改良が必要である.この人工電場中での電位計出力値からなる校正係数の有効性についての検証には至らなかった.

[評価]:

 これまでフィールドミル大気電位計の感度校正係数は,旧測器との比較観測によっていたが,旧測器が存在しない場合,故障修理または新規整備した測器についての係数決定が非常に困難であった.大型コンデンサによって精確な電場を作ることができるようになれば,観測精度の向上が図られるであろう.また,測器の状態診断等メンテナンスも容易になる可能性がある.現状では,作られる電場の非一様性,極板間の距離の変更に多少難があるなど問題点を残している.また,大型コンデンサによる校正係数を用いた観測値の評価は未実施であることから引き続き検討していくのが適切であると考えられる.


エ.地磁気現象自動検出に向けての基礎調査(平成17年度〜18年度)

[担当者]:

○大川隆志,岩瀬由紀,西村三治(観測課),海東恵美(技術課)

[成果]:

 aceおよびgoes衛星の太陽風またはX線の一次データベースを定期的に更新している.
 急変化現象,脈動現象についての検出方法についての検討を試みたが,プログラムのコード化までは至っていない.人工擾乱,測定器のメンテナンス等による異常値が少なくなく自動検出にとっては障害となるが,一地点(kak)のみで判定するのではなく準リアルタイムでのデータ収集できつつあるmmb,knyまたはcbiのデータを取り込むことにより精度の向上を考えている.過去データとの照合,クオリティの適正化についての調査は未実施である.

[評価]:

 調査研究の進みが停滞していることは非常に残念である.自動検出の精度が向上すれば現象読取りの効率化が図られ,データベースが充実するのは明らかである.過去においては人的作業量等の問題でデータとして蓄積されないものも存在していたと考えられ,今後,蓄積データの基準の変更もあり得るため,品質の相違等過去データとの比較・適合の検討は重要である.また,情報発信の充実化のひとつとして,リアルタイムに近い形での情報提供があげられる.それらを実現するために,本課題の調査研究は今後も継続するべきであると考える.


オ.成分磁場測定の方法及び精度に関する基本調査(平成17年度〜19年度)

[担当者]:

○塚越利光,源泰拓 (観測課),外谷健(調査課)

[成果]:

 地磁気ベクトルのZ,Hx,Hyの3成分を選ぶことにより,静止系(固定軸)での成分磁場はベクトルプロトン方式で原理的には測定可能である.これを実現するための課題とその解決の見通しについて検討した.主な課題は次の5点である.
 1.Hyの値が小さくOHMやOPMの測定レンジの範囲外である.
 2.Hyで求められる測定精度が非常に高く,設置・測定などに相当の工夫が必要なこと.
 3.垂直磁場のない水平場を実現するため,Z成分消去方法を改善すること.
 4.望遠鏡光軸と補償磁場軸との角度差を正確に決定すること.
 5.補償電流を目標値まで自動変化させるための電流値の制御が必要となること.

 1.についてはカスマーのように45度または60度方向をとることで測定可能となる.3.については補償磁場コイルを独立に設置すること,また垂直軸レベル補正用にコイルを2方向に取り付けることで回転せずに垂直磁場を実現できる可能性がある.5.はパソコン制御により実現可能と考えられる.
 残る課題は2.と4であるが,4.は製作時に常数として正確に求められればよいので,成分センサーのFTやFMセンサーが利用できないかを検討している.2.は3.と4の実現により,解決に向けた工夫を考えていけるものと思われる.

[評価]:

 絶対観測自動化へのアプローチのひとつとして,静止系での地磁気3成分測定の可能性に向けて検討すべき課題が見えてきた.しかし,この残されたHy成分の測定精度を上げるための工夫と望遠鏡光軸と補償磁場軸との角度差の測定についての課題は,いずれも新たなアイデアや工夫が必要になるものと思われるので,関連情報の収集をはじめこれらの解決に向けて引き続き調査を進められたい.


カ.地磁気観測所構内の比抵抗分布の調査(平成18年度)

[担当者]:

○藤井郁子(技術課),芥川真由美(調査課),生駒良友(鹿屋),岩瀬由紀(観測課),海東恵美,熊坂信之,小池哲司(技術課),高橋道夫(所長),豊留修一(技術課),西村三治,森永健司(観測課),山本輝明(技術課)

[成果]:

 VLF測定器を用いて,柿岡構内の比抵抗分布観測と定点での比抵抗連続観測を行った.
 柿岡構内の比抵抗分布観測では,10月3−4日,13日に,柿岡構内に10m間隔で配置された約400点でVLF測定器を用いて比抵抗と位相を観測した.比抵抗は約10〜100 ohm m,位相は約40〜80度の範囲で推移し,電線や構造物の近く以外では安定していた.比抵抗・位相分布は比較的滑らかで,高比抵抗の表層の下に低比抵抗層をおく単純な2層構造で解析することにした.表層の比抵抗を仮定して,表層の厚さと第2層の比抵抗を計算しているところである.
 なお,後日,自然電位と全磁力についても比抵抗と同測点で計測が行われ,構内の電磁気的な特徴を総合的に理解する材料を得ることが出来た.
 定点での比抵抗連続観測では,構内の南側台地において,12日間にわたり断続的に観測を行った.昼間の磁場は比較的安定しており観測日が変わっても再現性が高いが,電場はやや不安定で,結果として±10 ohm m程度の比抵抗変動につながることがわかった.また,電離層での日の出・日の入りの時刻には磁場・電場とも大きく変化し,比抵抗も時間変動した.夜間は,日によって磁場の値が大きく変化し,それに伴って電場・比抵抗とも変動することがわかった.

[評価]:

 VLF観測に限らずMT観測の経験がほとんどない世代が中心のプロジェクトであったが,大勢が協力・連携して大がかりな観測をやり遂げたことを評価したい.自然電位や全磁力など当初計画されていなかった観測についても所内の意欲を引き出す結果となったのは,望外の喜びだった.しかし,観測が成功裡に終わった一方で,解析が予定より遅れているのは否めない.今後は,解析を早急に終わらせ,テクニカルレポートなどに成果をまとめることを希望する.


キ.有珠山における全磁力観測 −2006年有珠山集中総合観測−(平成18年度)

[担当者]:

○小池哲司(技術課),長谷川浩(女満別),藤井郁子,大和田毅,徳本哲男(技術課),大川隆志(観測課)

[成果]:

 平成18年度,有珠山において地震,測地,地球電磁気等による集中総合観測が実施された.地球電磁気観測では,7月3日〜12日にかけて比抵抗探査,自然電位観測,全磁力の磁気測量が行われ,当所は7月3〜7日に比抵抗探査と磁気測量に参加した.
 当所が主として行った磁気測量では,2000年噴火の活動領域である西山火口群近傍の磁場分布を測定した.7月5〜6日の2日間に西山火口群近傍の105点にて全磁力の測量を行った.
 この磁気測量結果からの西山火口群近傍の磁気異常分布について
 ・北西側地熱地帯に大きな負の磁気異常があり,その異常の中心は地熱地帯の地形ピークからはずれている.
 ・地熱地帯の東側からN−B火口にかけて地形に相関しない負の異常が広がっている.
 ・地熱活動が活発なN−B火口近傍には磁気異常は見られない.
の顕著な特徴が有ることがわかった.
 この北西側地熱地帯について,周囲の地下100mまでを3層に分け,各層を50個の直方体磁化ブロックで敷き詰めた3次元インバージョンモデルによる地磁気トモグラフィーを行い地下構造推定した.この計算結果では地熱地帯の大きな負異常は地下10〜40mの領域で高々2A/mの磁化を失ったとするモデルで説明できる.
 過去にこの地熱地帯で行われた電磁気観測によれば,比抵抗観測では磁気異常が見られる周囲で地表から20〜30mの浅い領域に蒸気溜りが原因と推定される高比抵抗域が測定されているが,一方その時に同時に行われた地磁気観測ではこの磁気異常を磁化10A/mで地下15〜200mの領域にわたる強くて深い消磁モデルでの解析結果が報告されている.今回の我々の地下構造推定結果では比抵抗観測の方に近い結果であると考えられる.

[評価]:

 今年度の有珠山での火山集中総合観測に当所からも7月に地球電磁気観測部門で参加し,2000年噴火での西山火口群あたりの数百メートル四方で全磁力磁気測量を実施した.その結果,幾つか特徴的な磁気異常のあることが分かりシミュレーションとの比較を行うなど十分な成果が得られたと思われる.
 ぜひこの成果をテクニカルレポートにまとめることを望む.



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